我が家のモルモット「しゅんたくん」は昨年に椎間板ヘルニアの診断を受け、下半身が動かせなくなった時期がありました。
発症から3ヵ月ほど動物病院に通いつつ、自宅でマッサージと可動域訓練を集中的に行った結果、現在では室内を元気に走り回れるまで回復しています。
以前のように長時間の散歩やジャンプなどはできませんが、適度に運動して好きなおやつを食べて過ごしているので一安心です。
しゅんたくんが動けなくなった際に最初に問題になったのは、褥瘡(床ずれ)対策や、それに関連する排泄物の汚れでした。
しかし、少し元気になってくると、今度は下半身を引きずりながら動く姿が痛々しく、新たな対策が必要になりました。
動けない間は、こちらが体位変換などをすればある程度の清潔や健康を保持できていたのですが、自分で下半身を引きずりながら動くとなると話は別です。
脱毛や皮膚の裂傷、上半身にかかる過剰な負荷といった、寝たきりの時とは異なる二次的な被害に気を配る必要が出てきます。
私は作業療法士(OT)としてリハビリ関連の業務をしていたので、真っ先に思いついたのが「歩行補助具」でした。
簡易的なものであれば自作も可能ですが、本格的なものとなると専門家に依頼して作ってもらうか、既製品を購入して調整するのが一般的でしょう。
歩行補助具の作成費用や既製品についてインターネットで調べていた際に、少し気になったことがあります。
それは、Amazonや楽天などのECサイトで販売されている既製品の補助具についてです。スタイリッシュな写真とともに紹介されている「ペット用歩行補助具や車椅子」。
愛するペットが病気や怪我、あるいは高齢で歩けなくなったとき、「もう一度、自分の足で歩かせてあげたい飼い主さんへ!」こんなキャッチコピーを目にすれば、すがるような思いで購入ボタンを押したくなるかと思います。
私自身も同じ気持ちだったので、痛いほど分かります。
しかし、OTであり、人間相手ではありますが実際に歩行器の調整や歩行訓練を行ってきた私から申し上げると、既製品を購入してそのまま使用することはあまりお勧めできません。
今回は、「一見、良さそうに見える既製品の補助具」がOTから見てなぜおすすめできないのか、その理由を解説します。
大切なペットのために既製品の歩行補助具の購入を検討している場合の参考にしてみてください。
既製品の歩行補助具がおすすめできない理由はあるのか?
この問いに対して、私は間違いなく「YES」と答えます。
もし私の周囲の人に聞かれれば、既製品の購入はやめてもらい、動物病院経由でオーダーメイドの装具を作成している業者を紹介してもらうように勧めます。
また、病院に伝手がない場合は、インターネットで既製品を購入するのではなく、ペット用義肢装具を作成してくれるメーカーを探すことを勧めるでしょう。
理由は単純で、子犬や小動物用と書かれていても、ご自宅のペットに適合するとは限らないからです。
当たり前の話ですが、同じ種類、同じ体重の犬や猫であっても、胴体の長さや足の長さ、障害の原因や部位は一匹一匹まったく異なります。
体に合わない靴を履いて走るのが辛いように、体に合わない歩行補助具の使用は、ペットにとって「歩行を助ける道具」ではなく「体を痛めつける拘束具」になりかねないのです。


参考に既製品の補助具の画像とリンクを貼っています。決して購入をお勧めしているわけではないので、あくまでも参考として確認する程度にとどめてください。
リハや補助具の基本は「使用者ファースト」

ペットに適した補助具を入手しても、自分でリハビリを行う時には注意が必要です。
使用者の体の状態と抱えている問題について把握し、それらを考慮しながらリハビリを実施する必要があります。
人間がケガや病気で歩行が困難になり、歩行を補助するための歩行器や装具を使用する際には、使用者用に専用で作成した道具であっても、義肢装具士とリハビリ関連職種が介入し、細かい採寸と動作確認を行います。
使用者に完璧に合わせた装具や歩行補助具であっても、リハビリで訓練を行ううちに道具にガタがきたり、使用者の体型が変わったり、歩行状態が変化すると不具合が生じます。
その都度、修正と調整を行うわけですが、専門家もおらず、人間と同じ言葉で補助具の違和感や不具合を伝えることができないペットが対象の場合、飼い主さんがそれらの異変を察することは非常に困難でしょう。
歩行器や装具は間違った使い方をしていても、はた目には「普通に使えている」ように見えがちです。
しかし、適切でない運用を続ければ、道具だけでなく使用者にもじわじわと負担が蓄積していき、その結果、思わぬ二次被害が出ることになってしまいます。
専門家が使用者に合わせた補助具ですらこのような状態なのです。
通販で手に入る既製品の「S・M・L」といった大まかなサイズ展開では、個別のペットに対応しきれるはずがないのは当然と言えるでしょう。
当然ですが、同じ種類・体重の犬や猫であっても、背骨の長さや足の長さ、障害の状態は一匹一匹まったく異なります。大型、中型、小型のペットのサイズやS・M・L程度の製品展開ではカバーしきれないのは当然です。
ペットは不具合を言葉で伝えられない

ペットに歩行補助具を使用する際、最大のリスクはこれになります。
人間であれば「ベルトが当たって痛い」「タイヤの位置が高すぎて漕ぎにくい」と言葉で伝えられます。
しかし、ペットはそれを訴えることができません。そもそも人間と異なり、ペットの場合は「なぜこれを付けるのか?」を理解できていないでしょう。
ただでさえ装着する意味が理解できていないのに、痛みや不快感があれば補助具自体が嫌になってしまいます。
無理を重ねた結果、大切なペットの怪我や病気が悪化したり、高いお金を出して購入した歩行補助具がお部屋の隅でオブジェになってしまうかもしれません。
そんな悲しいことが起きないように、慌てて既製品の歩行補助具を購入する前に以下の注意点に目を通して、本当にご自宅で大切なペットに使えるものなのか、使っても良いものなのかを検討してみてください。
サイズや調整が合っていない補助具を使い続けると、以下のような深刻な問題が生じる可能性があります。
リハビリや医療に関わる専門家であれば、モルモットの動きや筋肉の収縮から不調の原因を把握することも可能ですが、一般の方にはまず無理です。
注意ポイント
- 姿勢の悪化:体に合わない道具で無理に動こうとすると、異常な筋肉の使い方を体が覚えてしまい、本来の回復を妨げます。
- 新たな怪我:フレームが皮膚に強く当たって裂傷ができたり、関節に不自然な負荷がかかって脱臼や変形を引き起こしたりします。
- 歩行の拒否:道具が不快だったり痛みがあることで、歩行を拒否するようになるケースがあります。
既製品がおすすめできるケース
ここまで、色々と辛口な評価で購入をおすすめできないと言ってきた既製品の歩行補助具ですが、購入をおすすめできるケースもあります。
それは、既製品をあくまでも「改造のベース」として割り切る場合です。私は個人で歩行を補助する器具を作成してモルモットのリハビリに使用しました。
この時使用したのは100円ショップなどで安価に入手できる材料が多くを占めていました。
この理由は、モルモットの歩行状態や必要な器具の構造が理解できていても、いきなり完璧な補助具を作れるわけではないためです。
まずはイメージ通りの器具を作成し、モルモットに使用してもらい、問題があれば微調整をしながら完成に近づけていきます。
そして、モルモットにとって最適なものが完成すれば、その試作品をもとにして耐久性の高い材料で完成品を作成する予定でした。
この「完成品を作成する工程」の労力を大幅に軽減してくれるのが、既製品の補助具なのです。
タイヤやフレームをイチから調達して加工するのは大変な労力なので、既製品をベースにして、自分のペットに合わせて「徹底的に改造・調整する」という前提であれば、既製品の補助具は有用な選択肢になり得ます。
つまり、これまでお伝えしてきたように、以下のような知識や技術が必要になるので、結局、多くの人には適していないということになってしまうのです。
既製品がおすすめできるケース
- ペットの病気や怪我の状態を把握・理解できる(病理学)
- ペットの歩行動作や痛みの原因を分析できる(解剖学・運動学の知識)
- 不具合を見つけて、自分でフレームを切断・接着・加工できる(DIYスキル)
私自身も資金が潤沢にあれば、専門の業者に器具の作成や調整を依頼します。その中に自分が加わり意見の交換ができれば、見落としを防いでより良い器具を作れると考えているからです。
まとめ
この記事では、私自身の経験をもとに、インターネット上で販売されている既製品の歩行補助具についてOT的な視点を交えながら解説してきました。
怪我や病気でハンデを持つことになってしまったペットに対して、「なんとかしてあげたい」という飼い主さんの愛情は大切で、本当に尊いものです。
リハビリや福祉用具の知識がある私の目にも、インターネット上で見かける「着けるだけで歩けるようになる」といった補助具の広告はとても魅力的に映りました。
だからこそ、同じような悩みを持つ飼い主さんに伝えたいのです。「装着すれば魔法のように歩ける」と思わせる広告には注意が必要だということを。
もし歩行補助具の導入を検討されているのであれば、既製品をそのまま使用するのではなく、獣医師に相談したり、オーダーメイドで製作してくれる専門の工房に相談することをお勧めします。
リハビリにおいて、「合わない道具」は最大の敵となり、大切なペットの新しい怪我や無駄な出費の原因となる可能性があります。
あなたが大切に思うペットの体と心に寄り添った選択をしてあげてください。