以前、別の記事で我が家のうさぎ「きなこ」くんがエンセファリトゾーン症と診断され、治療中であることをお伝えしました。
駆虫薬による治療が始まってから約2ヵ月が経過し、転倒や同じ場所でくるくる回るような症状は減少してきました。
完全に駆除できたかどうかは分かりませんが、寄生虫自体への治療は順調に進んでいると考えられます。
治療開始前に、獣医師からは後遺症として首が傾いたままになる「斜頸」が残る可能性を示唆されており、その点については若干の不安を抱えていました。実際、現時点でも首の傾きは残っています。
そんな中、人を対象に徒手的な介入を行っている作業療法士である筆者は、きなこくんの傾いた首を見ていて、ふと考えました。
「もしかして、この首の傾きのうち、筋肉のこわばりや姿勢のアンバランスに由来する部分であれば、徒手的な介入でいくらか軽減できるのではないか?」と…。
本記事では、斜頸がみられるうさぎのきなこくんに対して筆者が行った徒手的介入について、その目的と経過、そして現時点で見られている変化を紹介していきます。
※この記事はあくまで「筆者の体験談」であり、医療行為や特定の治療法を推奨するものではありません。似たようなケアを検討される場合は、必ず主治医の獣医師と相談のうえ、うさぎの様子をよく観察しながら、無理のない範囲で行ってください。
うさぎの斜頸にマッサージは効果があるのか?

結論から述べると、「獣医学的な研究・エビデンスを前提にすると、マッサージが斜頸そのものに対して明確な治療効果を持つかどうかは、現時点でははっきりしていない」と言えます。
まず注意してもらいたいのは、「斜頸=エンセファリトゾーン症」とは限らないという点です。
うさぎの斜頸には、中耳炎・内耳炎などの耳の病気や、その他の神経疾患など、さまざまな原因が報告されています。
そのうえで、本記事ではエンセファリトゾーン症が原因と診断され、駆虫薬治療を行ったあとに斜頸が後遺症として残ったケースを想定し、話をシンプルにするために、あえて次の3つのパターンに分けて考えてみます。
- 寄生虫によって脳・神経系に器質的な障害が生じている場合。
- 長期間、斜頸が続いたことで、筋肉の硬さや骨格アライメントの変化、全身のバランスの崩れが起きている場合。
- 1と2の両方の要素が、複合的に現れている場合。
1のように、中枢神経の器質的な障害が主体となっているケースでは、マッサージだけで斜頸そのものが大きく改善する可能性は低いと考えられます。
一方で、2のように二次的な筋緊張や姿勢のアンバランスが中心となっているケースでは、マッサージや関節可動域訓練などの徒手的な介入によって、症状がいくらか軽くなる可能性があります(あくまで理論的な考え方であり、明確なエビデンスがあるわけではありません)。
実際の臨床では、3のように「中枢の障害」と「二次的な筋・骨格の問題」が入り混じっているケースが多いのではないかと、個人的には考えています。
その場合でも、マッサージによって「頚部の傾きがわずかに軽くなる可能性があること」「これ以上の悪化を予防する一助となり得ること」「きなこくんのリラックスや安心感につながること」などは、十分に期待できると感じていました。
当然、より専門的な検査(画像検査や詳細な神経学的検査など)を行えば、ここで挙げた1〜3以外の要因が見つかる可能性もあります。
本記事ではあくまで「考え方の整理」として、この3つのパターンにしぼって考察している点をご理解いただければと思います。
なお、本記事の内容は、筆者の臨床経験と個人的な考察に基づくものであり、すべてのうさぎに当てはまるわけではありません。
実際の診断や治療方針については、必ず主治医の獣医師とよく相談したうえで進めていただくようお願いいたします。
うさぎの骨格と筋肉を確認
人間を相手にリハビリを行う中で、筆者はいつも「骨格の並び」と「筋肉のはたらき」を意識しています。
今回のきなこくんの斜頸にアプローチする際にも、まずはうさぎの解剖図をしっかり確認しました。
うさぎの頸椎は、人間と同じように、基本的には7つの骨が連なって首をつくっています。ただし、その構造は人よりずっと小さく華奢で、急なひねりや反らしに弱い、デリケートな部位です。
首の骨の周囲には、頭部を支えるための筋肉が重なっており、片側に傾いた姿勢が長く続けば、どうしても特定の筋肉に強い負担がかかります。
実際に触診してみると、頸部から背部にかけての筋肉に明らかな硬さがみられました。
さらに、その筋肉のアンバランスに引っ張られるように、肩甲骨の位置に左右差があり、頸部から背骨にかけて軽い側弯傾向が疑われる所見もみられました(あくまで触診所見レベルの印象です)。
異常があると思われる部位を見ると、「正常な位置に戻したい」という気持ちになりがちですが、筆者はあえて「首を無理に“まっすぐ”に戻そうとしない」ことを決めました。
斜頸そのものは、脳や内耳などに生じたダメージによる神経学的な問題であることが多いとされており、外から力を加えただけで簡単に治るものではありません。
むしろ、強い力で元に戻そうとすれば、うさぎの身体に強い痛みを与え、防御反応や緊張をさらに高めてしまうおそれがあります。
そこで筆者は、ゆっくり時間をかけて徒手的な介入を行い、「首を矯正する」ことではなく、「筋肉の硬さや痛み、姿勢のアンバランスを少しでも和らげること」を目標にする方針をとりました。
きなこに行っているケア
まず大前提として、ここから書く内容は、私が主治医と相談しながら、自分のうさぎに対して試しているケアの一例です。
決して「このやり方なら必ず良くなる」「誰にでも当てはまる」といった性質のものではありません。
特に、急性期の斜頸や、強い痛み・けいれん(発作)・重度のふらつきがみられる状態では、マッサージ自体が負担になる可能性もあります。
もし同じようなアプローチを検討される場合は、必ず事前に獣医師に相談し、そのうえで、うさぎの表情・呼吸・食欲などをよく観察しながら行ってください。少しでも負担になりそうであれば、すぐに中止することが大切です。
これは公式の医療行為ではないので注意してください。
徒手的介入の基本方針
人に対するリハビリでもそうですが、強い力や長時間の刺激は、かえって筋肉を緊張させてしまうことがあります。
うさぎの場合は体も小さく、筋線維も繊細なので、「これで本当に効いているのかな?」と不安になるくらいの弱い力が、ちょうどいいと考えています。
きなこに対して意識しているのは、次のような基本方針です。
- 力は「撫でる+α」程度(押さえ込まず、支えるように触れる)
- 1回は数分程度にとどめ、回数を分ける
- 呼吸や表情を見ながら、嫌がったらすぐにやめる
- 「まっすぐにする」ではなく、左右差をほんの少し縮めるイメージで触る
特に意識している部位と触り方

首〜肩まわり
触診で特に硬さが目立ったのが、首から肩にかけてのラインでした。
ここでは、指先で揉むのではなく、手のひら全体で包み込むように支えながら、筋肉の走行に沿ってゆっくり撫でるイメージで触れています。
具体的には、
- きなこが吐く息に合わせて、ふわっと力を抜く方向に誘導する
- 同じ場所を長くいじり過ぎず、少しずつ位置を変えながら撫でる
といった工夫をすることで、防御反応が出にくい印象です。
体幹・背中
体幹には、傾いた首を補おうとして、じわじわとねじれが出てきます。
ここでは、背骨そのものをグイグイ動かすのではなく、背中全体を大きな面で撫でるようにして、「丸まり過ぎ」や「片側への寄り過ぎ」を、少しニュートラルな位置に近づけるイメージで触れています。
きなこがリラックスしているときには、背中に沿って指をすべらせながら、筋肉の張り具合を確かめる程度の軽いストレッチも加えますが、あくまで「気持ちよさそうにしている範囲」にとどめています。
四肢と関節
四肢に関しては、関節を大きく曲げ伸ばしするのではなく、関節の自然な動きの範囲で、軽く動きを出す程度の運動にとどめています。
ただ、きなこは足先を触られるのがあまり好きではないので、この部分はその日の機嫌と相談しながら、無理せずやめることも多いです。
サインを見ながら「やり過ぎ」を防ぐ

きなこの身体に触れる際は、「表情」「動き」「筋肉の収縮」に注目し、それぞれが発するサインを見落とさないようにしています。
良いサインが出ているうちは、「今のところは気持ちよく受け取ってくれている」と判断し、注意サインが少しでも見えたら、その日はさっと切り上げるようにしています。
マッサージの最中や前後に、私が特に気をつけて見ているサインは、次のようなものです。
良いサイン
- 目が細くなったり、目を閉じてリラックスする
- 顎や体の力が抜けて、筆者に体を預けてくる
- マッサージ中に筆者の手を舐めてくる
注意したいサイン
- 体がカチッと固まり、耳がピンと立ったまま動かなくなる
- 体をひねって逃げようとする、足をバタバタさせる
- 緊張し過ぎて筋肉が硬くなる
斜頸のうさぎ「きなこ」の変化
きなこは、どちらかというと「撫でられるのは得意ではない」タイプです。
こちらが触ろうとすると、逃げていったり、「今はいいです」という顔で距離を取られることもしばしば…。
正直、最初は「マッサージは無理かもしれない」と思っていました。
ところが、斜頸が出てから、首〜肩まわりをそっと包み込むように撫でていると、思ったより受け入れが良く、逃げたり拒否することはありませんでした。
そのまま続けていると、体の力もゆっくり抜けていき、目を細めてうっとりしたような顔を見せるようになったのです。
さらに最近では、私が床に座ると、きなこが近づいてきて、自分からマッサージしてほしい位置に体を寄せてくることが増えました。
以前なら逃げていた距離感が、「そこ、今日もお願い」という距離感に変わってきたのは、飼い主的にはとても嬉しい変化でした。
もちろん、いつでもウェルカムというわけではなく、「今日はあんまり気分じゃない」という日もあります。
それでも、きなこ自身が「これは気持ちいい」「楽になる」と感じてくれているからこそ、ねだりに来るという行動が出ているのだと、私は受け止めています。
「治す」ではなく「暮らしやすくする」
斜頸と向き合ううえで一番の悩みは、「どこまで治るのか分からない」という点です。
正直なところ、きなこの首の傾きも、完全に元どおりになるかどうかは分かりませんし、今も角度そのものは残っています。
それでもマッサージを続ける理由は、「斜頸という障害をなくす」ことではなく、「斜頸があっても暮らしやすくするための二次障害の予防とQOLの向上」を目的にしているからです。
実際に、いくつか注目したい変化も起きているので、それらを意識しつつ、今後もケアを継続していく予定です。
注目している変化
- 筋肉の硬さが少しやわらぎ、触ったときのカチカチ感が減ってきた。
- 体勢を変えるときのぎこちなさが、以前より少しスムーズになった。
- きなこ自身が、マッサージの時間を「安心できる時間」として受け止めてくれている。
これから斜頸うさぎと向き合う飼い主さんへ
この記事を読んでいるということは、あなたのうさぎさんにも、斜頸が出ていたり、その後遺症が残っていたりして、とても不安な気持ちで過ごしているのではないかと思います。
斜頸に対するアプローチで大切なのは、主治医としっかり相談し、原因の診断と治療方針を確認することです。
そのうえで、「自宅でできること」と「専門家に任せること」を分けて考えると、少し気持ちが整理しやすくなります。
エンセファリトゾーン症の後遺症として斜頸が残ったとしても、食事と水分がしっかり摂取できていれば、ただちに命の危険が生じるとは限らない、とされています(ただし、状態によって異なります)。
このため、ただ悲嘆にくれるだけではなく、「ご自宅のうさぎのために今できること」を一緒に探していけたらと思います。
自宅でできることの一例としては、以下のようなものがあります。
タイトルテキスト
- うさぎが安全に過ごせる環境づくり(滑りにくい床、段差の工夫 など)。
- 食事や水の位置を、斜頸の状態でも取りやすい高さ・角度に調整する。
- うさぎの表情・姿勢・食欲・排泄を、日々観察して変化を記録する。
まとめ
この記事では、エンセファリトゾーン症の治療をしているうさぎ・きなこに斜頸の症状が出現していることと、作業療法士として行っている徒手的なアプローチについて解説しました。
エンセファリトゾーン症の治療で命は助かっても、斜頸が後遺症として残ることがあります。
斜頸の背景には、脳・神経系に器質的な障害が生じている場合や、筋肉の硬さや骨格アライメントの変化、全身のバランスの崩れ、中耳炎・内耳炎などの耳の病気、その他の神経疾患など、さまざまな要因が関わっていると考えられます。
今回、筆者は触診により、筋肉の硬さや骨格アライメントの変化、全身のバランスの崩れがうかがわれたため、獣医師と相談のうえで、マッサージのような徒手的な介入を始めました。しかし、医学的(解剖学的)な知識に乏しい場合は、自己判断で強いマッサージや矯正を行うのは絶対にやめましょう。
ただ、徒手的な介入を行っても、直ちに斜頸そのものが治るわけではなく、あくまで二次的な筋緊張や痛み・姿勢のアンバランスを和らげることを目標にしています。
肩こりや腰痛の経験がある方はイメージしやすいと思いますが、筋肉と骨の不均衡が続くと、その部位を中心に痛みが生じやすくなります。
たとえ斜頸そのものの治療効果がはっきりとは期待できないとしても、うさぎにとってはリラクゼーション効果があるため、今後もマッサージは続けていくつもりです。
今のところの変化としては、首の傾きがひどかった時期と比べると、傾きがやや軽い状態で過ごしている日が増えてきたように感じています。
また、人に触れられるのが得意ではなかったきなこが、マッサージ中は気持ちよさそうにしていたり、筆者のそばに来て自分からマッサージを求めてくるようになりました。
病気の発覚前に比べて、明らかにスキンシップの時間が多くなっています。
斜頸が完全に元どおりになるかどうかは分かりませんが、「暮らしやすさ」と「一緒に過ごす時間の質」を少しずつ整えていくことには、確かな意味があると感じています。
斜頸は、見た目にもインパクトが大きく、飼い主の心を大きく揺さぶる症状です。それでも、うさぎ本人は、傾いた首のままでも、一生懸命その体で生きていこうとしています。
私たちにできるのは、その姿を否定せず、「今の体で、少しでも楽に、少しでも安心して暮らしていけるように」寄り添うことでしょう。
この記事が、同じように悩んでいる誰かにとって、ほんの少しでも心の支えやヒントになればうれしいです。